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仙台高等裁判所 昭和30年(ネ)66号 判決

控訴人 大和田忠吉

被控訴人 大和田桝吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は当審における口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされる控訴状の記載によれば「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めるというにある。被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

控訴代理人の陳述した当事者双方の事実上の主張並びに証拠は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

先ず控訴人の本案前の抗弁について案ずるに、本件記録並びに公文書であつてその成立を認め得る甲第一号証によれば、大和田トラは被控訴人の妻であつて被控訴人を事件本人とする盛岡家庭裁判所大船渡出張所昭和二十八年(家)第三八五号禁治産宣告申立事件において同年十月十六日同裁判所の決定により家事審判規則第二十三条の規定に基き被控訴人の財産管理人に選任され、昭和二十九年二月十九日その資格において本訴を提起したものであることが明かである。

右のような財産管理人はその権限の範囲について特段の定めがない限り少くとも本人の財産の保存行為については本人を代理して訴訟を提起し得る権限を有するものと解するを相当とする。本件の訴は被控訴人所有の本件不動産につきその登記名義を被控訴人に回復するため、控訴人名義の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるというのであるから、右は保存行為に属し、従つてトラにおいて被控訴人を代理してこれを提起し得るものというべきである。のみならず公文書であつてその成立を認め得る甲第四号証の一、二によれば右トラは昭和二十九年四月九日被控訴人に対する禁治産の宣告と同時に同人の後見人に選任され、右審判は同年四月二十四日確定したことが認められ、その後トラは後見人たる資格において訴訟代理人を選任し原審の訴訟行為を遂行させていることが記録上明かであるから、いずれの点からするも被控訴人の本訴は適法であつて控訴人の右抗弁は理由がない。

よつて本案について判断するに、本件土地(原判決添附目録記載)が被控訴人の所有であつたことは当事者間に争がなく、登記簿謄本であつてその成立を認め得る甲第三号証の一乃至三によれば右土地につき盛岡地方法務局世田米出張所昭和二十八年十月十二日受附第八八四号をもつて被控訴人から控訴人名義に同日の売買を原因とする所有権移転登記を経由していることが認められる。しかるに原審証人大和田敬の証言によれば、右の所有権移転登記は控訴人と被控訴人との間に何等売買等所有権移転の事実がないに拘らず控訴人において擅にした登記であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

しからば、右所有権移転登記はその登記原因を欠く無効のものであるから控訴人は被控訴人に対しこれが抹消登記手続をなすべき義務あるものというべく、従つて控訴人に対しその履行を求める被控訴人の本訴請求は正当である。右と同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴はその理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 畠沢喜一 杉本正雄)

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